双曲線軌道の影響圏境界判定


双曲線軌道上を宇宙船が動く時、
宇宙船は、双曲線軌道となる中心天体の影響圏の範囲はどこからなのか、
ということが、問題になってきます。

いろいろな文献を読みましたが、
どうも影響圏については、
曖昧な表現が多く、影響圏の判定については明記されていません。

FNの高校物理様のサイトでは、
「木星の質量は太陽の約1000分の1であるから、木星と太陽の距離の30分の1程度木星から離れれば木星の引力の影響はほとんどなくなる。」(計算方法など詳細は「FNの高校物理の惑星探査機のスイングバイ航法」参照ください)
太陽と木星間は、約778,330,000 km あるので、
木製の影響圏境界は、木星から約24,320,000 kmということになります。

その値を参考にして、エネルギーでの影響圏判定方法を説明します。

宇宙船が、双曲線軌道となる前は、双曲線軌道となる中心天体の親の中心天体の軌道上を動いています。
中心天体の親の中心天体は、わかりずらいかもしれませんが、
宇宙船が木星を中心天体(=木星の影響圏)として双曲線軌道上を動くとすると、
木星の影響圏に宇宙船が入る前は、太陽(中心天体の中心天体)の影響圏を動いています。
宇宙船が、木星の影響圏に入った瞬間に中心天体が、太陽から木星に移ります。
つまり、木星の影響を受けることになります。

【疑問1】
一般的に考えられている影響圏は太陽と木星の関係(質量)で決まるのか。
ということです。
実際に、双曲線軌道上を動くのは、宇宙船です。
宇宙船の動的エネルギーの大きさで双曲線軌道の形がかわるのでは無いかと予想しています。
また、宇宙船が木星に対してどのような速度・角度で侵入するかによっても、
影響圏の境界が変わるのではないかと予測しています。
その要素によって、軌道の形に違いがでるはずではないかと予想されます。

そこで、次の様な定義を考えてみます。

【定義1】
(1)宇宙船の動的エネルギーを(Ax)をとします。
(2)木星からの宇宙船の影響圏までの距離(R)とします。
(3)影響圏境界(R)での宇宙船の動的エネルギー(AR)とします。
(4)影響圏境界(R)での宇宙船の基準軌道方向の動的エネルギー(AHR)とします。
(5)影響圏境界(R)での静的エネルギーを(SR)とします。
(6)影響圏境界(R)での脱出静的エネルギーを(2SR)とします

【仮定】

宇宙船の基準軌道方向の動的エネルギー(AHR)=木星から距離(R)の脱出静的エネルギー(2SR)の時に、
影響圏の境界と判断します

AHR = 2SR



影響圏に侵入する前から侵入までの、「静的エネルギー」と「基準軌道方向の動的エネルギー」の判断条件は、次の表のようになります。

動的エネルギーと静的エネルギーの関係

エネルギーの推移は次の様になります。
(1)宇宙船は太陽の影響圏を移動してきます。
(2)木星からの位置(R)で木星の影響圏に進入します。
   その時の、宇宙船の動的エネルギー(AR)と進入角度(θ)による
   基準軌道方向の動的エネルギー(AHR)により
   木星の影響圏に侵入したかを判断します(影響圏判定参照)
(3)基準軌道半径(a)の静的エネルギー(Sa)は、影響圏境界(R)の中心天体(木星)方向の
   動的エネルギー(AVR)と同じになります。
(3)宇宙船は影響圏進入した距離(R)から最近位置(r)に向かって、
   静的エネルギーの2倍(2S:脱出静的エネルギー)上を移動します
(4)宇宙船は最近位置(r)で動的エネルギーが最大となり、再び影響圏境界へ戻っていきます

基準軌道方向の動的エネルギー(AHR

(1)影響圏進入角度(θ)がわかっている場合は、次の様になります。

宇宙船動的エネルギー     :AR = mv2
進行方向の動的エネルギー   :AHR = ARsin2θ


(2)影響圏境界(R)がわかっている場合は、つぎのようになります。

   影響圏進入角度θは  

になります。

中心天体方向の動的エネルギー(AVR

中心天体方向の動的エネルギーは、影響圏境界(R)でも宇宙船の動的エネルギー(AR)から、
基準軌道方向の動的エネルギー(AHR)を差し引いた値になります。

AVR = AR – AHR

基準軌道半径(a)

影響圏突入後の基準軌道半径(a)の静的エネルギーは、中心天体方向の動的エネルギー(AVR)と仁k樹なります。
そして、影響圏内にいる間は変化しません。

Sa = AVR

すなわち、基準軌道半期(a)は、

Em:質量エネルギーと
ac:光速時軌道半径と
AVR:中心天体方向の動的エネルギー

より

a = AVR / (Em x ac)

になります。

最接近距離速度(vr


運動エネルギー(Kr)と位置エネルギー(Pr)と総和エネルギー(Sa/2)が保存することより、

Sa /2 = -Kr + Pr/2(wikipedia『軌道速度』)…速度からエネルギー換算してます。

になります。

各辺を2倍すると、

「動的エネルギー(Ar)」と「静的エネルギー(Sr、Sa)」は、

Ar = 2Sr + Sa …①

となるので、最近接束度 vr

となります。

【例】木星における双曲線軌道

○前提数値
宇宙エネルギー定数:U = 7.42426E-3 km/kg
光速:c = 1.07925E+9. km/h
木星質量 :M = 1.89813E+27 kg
宇宙船質量:m = 1.0 e3 kg

木星影響圏の進入角度:θ…未定
影響圏境界距離:R = 24,320,000 km
その時の宇宙船の速度(vR)は vr = 66,603.6km/h(秒速 18.501 km)
宇宙船の質量エネルギー:Em = 1.16479E+21 je
光速時基準軌道半径:ac = 0.00141 km/kg
最接近距離(r)r = 2,324,512 km

○影響圏境界(R=24,320,000 km)の状態
宇宙船の動的エネルギー:AR= m x v2 = 4.43604E+122 je
静的エネルギー:SR = Em x ac / R = 6.74935E+10 je
基準軌道方向の動的エネルギー:AHR = 1.34987E+11 je
中心天体方向の動的エネルギー:AVR = 4.30105E+12 je
宇宙船影響圏進入角度:θ = 79.95388°

○基準軌道半径(a)
静的エネルギー :Sa = AVR = 4.30105E+12 je
基準軌道半径:a = Em x ac / AVR = 381,637.15012 km

○最近点(r = 2,324,512 km)の状態
静的エネルギー:Sr = Em x ac / r = 7.06145E+11 je
宇宙船基準軌道方向動的エネルギー:AHr = 2 Sr =1.41229E+12 je
宇宙船動的エネルギー:Ar=AHr + AVr = AHr+Sa = 5.71334E+12 je
軌道速度:v r = 75,586.6499 km/h(秒速 20.99629 km)

半揚稔雄著『惑星探査機の軌道計算入門』のニューホライズンの木星スイングバイの
影響圏境界(R)=4.82E+7 km で計算すると

影響圏進入角度 θ = 82.88218°となり
最近点の軌道速度は、vr=21.11882 km/s
となり著書の結果 21.244 km/s とほぼ近い数字になりました。


※上記値で、影響圏進入速度をvR=18.8 km/sくらいにすると、
i影響圏進入角度=θ = 80.11116°となり
最近点の軌道速度は、vr=21.26 km/s
になり、実際とかなり近い値になります


重要事項

ここで、重要なのは、

(1)影響圏境界は、変動するということです。
   つまり、宇宙船の速度、中心天体(木星)と宇宙船の進行している角度などの
   宇宙船と中心天体、の違いにより、影響圏境界は変動します

   影響圏が変動しても、最近点を狙った双曲線軌道を描くことができるということです

(2)影響圏内の軌道
太陽の影響圏から木製の影響圏になって再びたいようの影響にもどります
太陽の影響圏では楕円軌道、木製の影響圏では双曲線軌道になり、
再び太陽の影響圏に戻ると楕円軌道になります



(3)放物線軌道について
放物線軌道は、双曲線軌道の特殊の形と考えれば良いです。
宇宙船の位置Rの動的エネルギー(AR)の中心天体方向の動的エネルギー(AVR)が
AVR =0の時に放物線軌道になります。
それは、基準軌道の静的エネルギーSa =0、
つまり、基準軌道半径=∞の時に発生します。

外から影響圏入ってきた時にAR =2SRとなる確率はかなり低く、
自然界ではおこらないのではないかと予想します。
また、天体の衝突で放物線軌道になる確率も、
衝突位置の静的エネルギー(Si)と衝突エネルギー(I)が、
Si = I となる確率もかなり低く、ほとんどの場合が
双曲線軌道になると予想します。

もし、そういう現象を知っていたら、
メールで連絡いただけるとありがたいです。