周回天体に、他の天体が衝突すると、静的エネルギーと動的ネルギーのバランスが崩れます。
「静的エネルギー」と「動的エネルギー」が次の表の②と③の場合、楕円軌道になります。

静的エネルギーと動的エネルギーの比較による軌道形態

ケプラーは、楕円軌道の中心天体を、
下右図のように、楕円軌道の萇半径と2つの焦点の片方におきました。
しかし、周回天体は、そもそも「静的エネルギー」と「動的エネルギー」がバランスする方向に、
移動しようとします。

下左図のように考え、
中心天体を、その基準軌道(赤円)を中心に持ってきて、
周回天体は、その基準軌道を中心に振幅(f)で振動して、
見かけ上楕円軌道になると考えました。

楕円軌道の考え方の比較

イメージとしては、楕円軌道 = 基準軌道(円軌道) + 単振動(r = a + fcosθ) になります。
精密に言えば、単振動に近い振動です。
ここでは、ざっくり単振動として扱います。

位置エネルギーと運動エネルギー(前提知識)

近点と遠点では、周回天体の位置エネルギーと運動エネルギーの大きさが異なります。
しかし、エネルギーは保存されるので、
それは、次のようなエネルギー関係になります。

中心天体の質量(M)、周回天体の質量(m)、中心天体から周回天体までの距離(r)として

一般的な楕円軌道上のエネルギー関係






 (楕円軌道のエネルギー関係は、
  (Hohmann transfer orbit)のCalculation項を参照
   https://en.wikipedia.org/wiki/Hohmann_transfer_orbit#Example.3B_maximum_delta-v)
  (該当の説明ページでは、mがMに比べて小さい場合は、
   M+mはMとしても問題ないとして書かれています。)
   説明文は、
      the total energy of the smaller body is
      the sum of its kinetic energy and potential energy,
      and this total energy also equals half the potential at the average distancea (the semi-major axis)
  と記述されています。


左辺は、運動エネルギー(K)と位置(r)の万有引力位置エネルギー(P)の総和エネルギーです。
力学的エネルギー保存の法則から導いた式です。
保存されるから、基準軌道半径の位置エネルギーの半分と等しくなるということです。

衝突による軌道=楕円軌道


楕円軌道のエネルギー変化を考えてみます。

そこで、下図のような、衝突による「衝突エネルギー(I)」、「静的エネルギー(S)」と「動的エネルギー(A)」を使った、エネルギー関係を考えてみます。


【近点衝突】
○apでの衝突
周回天体が、衝突前、基準軌道半径(ap)で円軌道上を動いていると仮定します。
静的エネルギー(Sap)と動的エネルギー(Aap)は等しくなります(Sap = Aap
その位置(ap)で、別の天体が周回天体に衝突したとします。

衝突位置(ap)の衝突後の動的エネルギー(Aap‘)、衝突エネルギー(Iap)とすると、

Aap = Aap + Iap = Sap + Iap …①

となり、
衝突した位置(ap)では、
静的エネルギー(Sap)と動的エネルギー(Aap‘)がバランスしなくなります。

○ap -> aへの移動
そこで、周回天体は、
静的エネルギー(S)と周回天体の動的エネルギー(A)が、
バランスする位置(a)に移動します。
移動距離は(f = a – ap)になります。これが振幅になります。

バランスする位置(a)では、
静的エネルギー(Sa) = 動的エネルギー(Aa)
衝突エネルギー(I0)=0

となります。

○基準軌道の位置
一般的な楕円軌道上のエネルギー関係は、

です。
この式を、両辺を2倍すると 

動的エネルギー(Ar) = mv2
位置(r)の静的エネルギー(Sr) = Gm(M+m) / r
位置(a)の静的エネルギー(Sa) = Gm(M+m) / a
なので

上の式は、任意の位置(r)の動的エネルギーと静的エネルギーは、
Ar = 2Sr – Sa
と表せます。

近点位置(ap)では、
Aap‘ = 2Sap – Sa  …②
になります。

①式と②式より(①式変形…Sap = Aap‘ – Iap を②式に代入)

静的エネルギー(Sa)= Aap‘ – 2Iap
となります。

静的エネルギー(Sa)は
質量エネルギー(Em) = mc2
光速時基準軌道(ac)= U(M + m) (U:宇宙エネルギー定数(7.42426E-31 km/kg))
基準軌道半径(a)

とすると
基準軌道の静的エネルギーは、

Sa = Em(ac / a)

なので

衝突エネルギー(Iap)が分れば、

a = Em x ac /(Aap‘ – 2Iap)

により、移動後の基準軌道半径(a)が計算できます。
実際のところ、衝突エネルギー(Iap)はわからないので、
既知の軌道半径(a)と近点(ap)の動的エネルギー(Aap‘)から、

Iap = (Aap‘ – Sa)/ 2

衝突エネルギーを算出する使い方ができます。

楕円軌道上の極座標(楕円軌道に移動)


さて、楕円軌道の任意の位置rは、極座標で表すと、
一般的に、離心率ε = f / a と 半直弦l=b2/aを使って(a:長半径、b:短半径、f:焦点距離)

と表されます。
楕円は円軌道+単振動という形にしたいので、

とします。

この式は、一般的な単振動 fcosθ が入っているので、
周期的に、大きさが変化して、軌道は対称性を持っています。
上の式は、θ=0の時、近点になります。
大人の事情で、θ=0の時、遠点にしたいので、
分母を a – fcosθ にします。

最終的に極座標の楕円焦点からの距離(r)を、
r = a + fθ の形に表したいので、fθ = r – a として、

と変形します。

ということで、任意の位置(r)は、

となります。

例えば、ハレー彗星のような長周期の軌道に対して、軌道の推移を時間軸で表すと、

・青線が楕円軌道
赤線が円軌道+単振動

となります。
これは、楕円軌道の周回天体は、単振動(赤線)しようとするが、
静的エネルギーの関係で、楕円軌道(青線)になるということです。